その男、猛獣につき
「…私が、興梠先生を好きってこと…です」
本当は言うつもりのなかった言葉。
それでも言うしかなかった。
もう語尾は誰にも聞こえなくなるくらい小さくなってしまった
先生は私を見つめたまま、視線を泳がせる。
明らかに動揺して、言葉にならないようだった。
「あっ、青か」
信号が青に変わったことに気付き、先生は私の言葉には何も触れずに、ゆっくりとアクセルを踏み込んでいく。
私と先生の間には車内の洋楽のBGMが流れているけれど、そんなの全く頭に入ってこない。
気まずい沈黙だけが通り過ぎていく。