その男、猛獣につき

「今日は、ありがとうございました」

病院に到着すると私は駐車場で降ろされたので、お礼を伝える。



あぁ、なんて先生はぶっきらぼうに答える。

 

先生とは私の告白から病院までの間、一度も言葉を交わすこともなく、視線すら合わせることもなかった。

 

 ―――バタン

思い切り助手席のドアを閉める。

 

早くこの場を立ち去りたい。



そう思って、先生の車が動くのを待っていたのに、先生の車は動く気配がない。

 

もう帰ろう。

 

先生の車に背中を向け、歩き出そうとした時、先生の車のパワーウインドウが開く音がする。

 

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