その男、猛獣につき
「ところで、主税はもう帰った?」
私は、そう言われてもう一度カーテンの隙間から駐車場を覗く。
先程まであった先生の車は、もうそこにはなかった。
「帰られたみたいです。さっきまで、駐車場で煙草吸ってらっしゃんたんですけど」
私の答えに敦也さんは、電話越しに驚きの声をあげる。
「主税が煙草?!それは、相当重症だわ」
敦也さんいわく、興梠先生は余程のストレスや悩みがないと煙草は吸わないらしく、どうやら私の告白は、それほどのストレスもしくは悩みだということみたい。
「俺は、いつでも女の子の味方だから。ねっ?舞花ちゃん」
敦也さんは優しい。
私を励まそうと、電話越しにガハハと笑ってくれる。
「ありがとうございます…」
まだまだ、涙は止まりそうにないけれど、敦也さんの気持ちだけは嬉しかった。
「何かあったらいつでも相談に乗るからね」
敦也さんはそう言って電話をきった。