その男、猛獣につき
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「ご、ご、5ですか?」
実習初日、各部署への挨拶廻りと簡単なオリエンテーションも終わりに近づいた頃、私は絶望的な気分に浸っていた。
「そう、5。何か?」
相変わらずの先生の冷たい蛇睨みに、私は固まって動けない。
ましてや今日は昨日のふわりとした栗色のパーマをかっちり後ろに流してかためていて、シルバーの細いフレームの眼鏡をかけている。
そのせいか先生の整った涼しげな顔立ちは、より涼しげに、というより冷淡、いや《冷徹の興梠先生》に拍車をかけている。
そのため、今日の蛇睨みは昨日よりも凄みを増していて、私は動けない。