その男、猛獣につき
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午前の業務が終わる頃、ホットパック用のタオルを干す雑務をリハビリ助手の嶋本さんと竹内さんに教えてもらう。
嶋本さんも竹内さんも、私の母親とそれほど変わらない年代で、患者さんの居なくなったリハビリ室の隅っこで、作業をしながら聞いてもないのに、《冷徹の興梠先生》情報やこれまでの実習生のあれこれを教えてくれる。
「去年の実習生は、確か耐えきれずに脱走したのよ。」
「違うわよ。それは、一昨年だったわよ。去年は確か興梠先生に楯突いたんじゃなかったかしら」
嶋本さんと竹内さんの二人のやり取りを聞きながら、私はため息しか出ない。
「有田さん、気をつけてね‼彼は、猛獣だから。」
はっ?
なっ、なんですって?
心の声が思わず、顔に現れてしまったのだろう。
二人のおばちゃんは、私の顔を見ながらゲラゲラと笑う。
「そう、そう。この病院で、興梠先生についてるアダ名は、猛獣なの」
「隙あらば、というより納得出来ないならどんなにか相手でも噛みつくわ。淡々としてるようにみえて、中は熱いからね。実習生なんて隙だらけだからね。」
フフフ。
なんて上品に笑う嶋本さんをみて、私は青くなる。
《冷徹の興梠先生》は、猛獣ですって。
ますます先行きが怪しくなったと感じ、私はさらに絶望的な気持ちになってしまった。
「でも、今回が初めてよ。女の子の実習生~。頑張ってね、有田さん。」
リハビリ助手の二人のおばちゃんは、好き放題喋り続け、作業が終わると休憩室に入っていった。