その男、猛獣につき
「じゃあ、何でわざわざ舞花ちゃんに忘れろとか言ったんだよ?舞花ちゃんかなり傷ついていたから、フォローしておいたけど」
「なんで、敦也、お前の方が知ってんだよ?」
「俺は舞花ちゃんの味方だから」
敦也が目の前で大きく笑い、残っていた缶ビールを飲み干す。
「実習に集中して欲しい気持ちも、もちろんある。だけど、相手はまだ21歳の学生だぞ?実習の精神的にも肉体的にも追い詰められた状況で、バイザーしか頼る人がいないなら一時的に好きって気持ちになっているだけの可能性もある」
「それで?」
「実習が終われば、遠距離になるだろう?」
「どうせ車で2時間程度じゃねぇか?」
「国家試験もあれば、俺がそうだったみたいに就職してこの仕事が楽しいって思って、のめり込むかも知れない。俺の存在がその時足かせになるくらいなら、実習生とバイザーのままで終わる方が…」