その男、猛獣につき

「興梠先生、私っ!!」

 

俺の背中に向けて有田が声をかける。

2人しかいない夜のリハビリ室で有田の声が響く。

 

聞こえなかったふりをするわけにもいかず、少しだけ振り向いて有田を覗き見ると、有田は先程の瞳をキラキラさせた表情のまま、その場に佇んでいる。

 

「どうした?」

 

「私、この病院で実習が出来てよかったです。」

 

「おいおい、まだ残り3週間も…」

 

言いながら振り返ると、キラキラとした有田の瞳の奥は真剣だったから、思わず口を噤んだ。

 

「こうやって、一人ひとりの症例をどんな治療すれば少しでも良くなるのかを考えるって、とっても素敵なことだと思ったし…、先生の手でたくさんの人を良くしたみたいに私ももっと勉強して、先生みたいな理学療法士になりたいと思いました」

 

「色々あったけど、先生と出会えて良かったと思います。だから、これからもこうやって時々でいいので指導してもらえませんか?」

 

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