その男、猛獣につき

お婆ちゃんが出入り口の方へ向かって歩いていく後ろ姿を見送る。

その歩く姿は30分程前、治療のためにベッドに向かって歩いてきた姿とは明らかに違っている。



このお婆ちゃんだけじゃない。
興梠先生が治療する人、1人1人が20分程度で歩き方や姿勢に変化がある。


「すごい」

思わず、素直な感想が口をついて出た。


やばい。
今の聞かれちゃったかな。



私より20㎝程の高い先生の顔をチラリと覗き見る様に見上げた。

先生は、お婆ちゃんの 後ろ姿を見ながら、満足そうに笑ってた。



こんな顔するんだぁ。


覗き見た笑顔が、ものすごく輝いているように見えて、私の胸の一部分を無意識にくすぐった。



初日の1日だけで、《冷徹の興梠先生》、改め、猛獣の興梠先生を私はすっかり尊敬していた。

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