その男、猛獣につき

「…なっ、なんだよ…」

 

ちょっとだけ不機嫌そうにぶつくさと口を尖らせる先生が、どこか少年の様で私は思わず笑ってしまう。

 

「それより、有田。何で敦也と居るんだよ?」

「…敦也さんが、昨日の晩、誘ってくれたんです。ストレス発散にどう?って」

 

先生が不機嫌そうに大きなため息を目の前でつく。

 

嘘じゃない。

本当にそう言って、敦也さんは誘ってくれた。

 

『もう、主税のこと吹っ切れたんなら、何も考えずに車椅子バスケだけ楽しみにおいでよ。プライベートなんだから主税とも無理に喋る必要もないんだし…』

 

 

その言葉を鵜呑みにして、敦也さんにお迎えに来てもらった。

 

本当は、先生に一目でも会いたいと思う気持ちが心の片隅にあったことは、私だけの秘密なんだけれども。

 

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