その男、猛獣につき
「まぁ、乗れ」
先生はそう言って、私を先生自慢の四駆に乗るように促す。
シートベルトを装着して、車が発進すると、先生はぼやくように呟いた。
「敦也、イイ奴だろう?確かにハンディキャップはあるけど、中身は文句つけよう無いくらいに男前だし…。」
「先生…?」
親友を誉めているはずなのに先生の言葉の端々に、怒りのような感情が滲み出る。
「…有田、お前、もしかして敦也が…」
「そんなんじゃないです!!!」
どうしてそうなるんですか?
運転席の先生を真っすぐに見据える。
「敦也さんが優しくていい人だっていうことは私もそう思います。でも…私が好きなのは…」
勢い余って出た言葉に、私の方が焦ってしまう。
それに私が好きなのは…。
好きなのは…、そっか。
もうその気持ちは、封印したんだったっけ。