その男、猛獣につき
気持ちをぶつける場所をなくして、さっきまでの勢いが一気に萎んでいく。

 

さっきまで先生を真っすぐ見据えたはずなのに、肩を落として頭を垂れた。

 

 

 

「…お、おい。有田、何、泣いてんだよ…」

信号待ちで、視線を私に向けた先生がそう言って焦った声を出した時、初めて涙がこぼれていることに気付く。

 

「…あっ、えっと…、その…」

 

泣きやまなきゃ…。

 

心では、そう思うのになかなか涙は止まってはくれず、次から次へと溢れだしてくる。

 

 

先生は後部座席から、ティッシュを私の膝の上に乗せてくれた。

いつかのあの時のように、箱ごと渡されたティッシュ。



私は涙こそ止まらないのに、思わずフフっと吹き出してしまった。

 
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