その男、猛獣につき

「全く、泣いたり笑ったり忙しい奴…」

 

半ば呆れたような声を上げながら、先生はハザードランプをつけて車を路肩に停める。

 

 

「とにかく落ち着いてくれないと、俺も運転に集中できない」

「す、すみません…」

 

ペーパードライバーの私には分からないけど、確かに横で泣かれたら集中できないよね…。

 

私はもらったティッシュで目頭を押さえるけれど、焦れば焦るほど涙は止まってくれる気配すら見えてこない。

 

 

 

「ほら、ちょっと来い。胸貸してやるから」

先生はいつの間にか外したシートベルトのおかげで自由になった身体を私の方に近づけ、血管の程良く浮いた腕で私を引き寄せる。

 

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