その男、猛獣につき
「今日は教えない。」

「何で?」

 

「そんなこと、自分で考えろ。」

 

先生は不機嫌オーラ全開で、必殺技の蛇睨みで攻撃してくる。

 

「そんなぁ…」

先生に聞こえるか聞こえないか分からない程に小さく呟いた私の声は、静かな二人きりの車内では先生にしっかり届いていたみたいで、先生がフッと鼻で笑った。

 

 

先生は路肩に停めたままだった車を発進させ、車道の流れに乗る。

 

気がつけばもう9月下旬。

対向車のランプが先生の横顔を照らす。

 

先生は、何か考えているような難しい顔をしながら運転している。

私は助手席から窓の景色を見るふりをして、窓ガラスに映るそんな先生の姿を眺めていた。

 

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