その男、猛獣につき
「有田、俺だってバイザーの前に1人の男だ」

いつかと同じ交差点の信号がまたもや赤で、車が停まる。

さっきからずっと沈黙していた2人の間を先生が先に言葉を発した。

「えっ?」

振り向いて思わず先生を見ると、先生は真っすぐに私を見つめていた。
私と見つめ合う形になって、先生の瞳は一瞬揺らぐ。




「親友であっても、敦也に嫉妬する。好きな奴を独占したい時だってある。…だから。」

私は息を呑む。


「だから、これから車椅子バスケは敦也とは行かないで欲しい。行きたい時は俺に言ってくれたら…。なんて、ただの俺のわがままか、これ」


先生は、そう言って苦笑いする。
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