その男、猛獣につき
「あのなぁ、膝の状態、膝と股関節の関節可動域はどうだった?歩容はどう変化した?」
私の先生への褒め言葉を途切れさせ、逆に質問責めにして、猛獣の興梠先生は私に噛みついてきた。
まぁ、興梠先生にとっては甘噛み程度なのだろう。
ただ、私にとってはそうじゃない。
それに加えて、冷たく蛇睨みなんて必殺技をされてしまったものだから私は何も答えることが出来ない。
「有田。何のための実習だ?俺を誉めるための実習じゃない。よく考えろ。」
すみません。
そう言いたかったけれど、言葉にならず、口をパクパクさせただけだった。
「もう俺の見学は今日は終わりだ。」
先生はピシャリと私に告げる。
出た。
《冷徹の興梠先生》
なんて、思う暇すら与えてもらえない程の恐怖が私を支配する。
「とりあえず、担当の症例の情報収集行ってこーい‼」
先生はただでさえ声の響く職員用の階段で叫んだ。
私はもう涙目で、とにかく目的のフロアまでかけあがるしかなかった。