その男、猛獣につき
「有田さん、本当にありがとう。」
最後に森田さんはそう言って私をどうにか動くようになった手をぎこちなく動かして私を抱きしめてくれる。
「興梠先生と、仲良くね」
抱きしめた森田さんが、私の耳元でそっと耳打ちしたから私は目をぱちくりさせると、森田さんはおかしそうに笑う。
「もう、ばればれよ。じゃあ、これで」
森田さんの乗った車が見えなくなるまで、大きく手を振った私を先生は優しく微笑んで眺めていた。
「さぁ、残りの仕事も、これで頑張れそうだな」
森田さんの車が見えなくなると、先生が満足そうに言いながら私の肩を1つ叩いて、フロアに戻っていくのを私は小走りで追いかける。