その男、猛獣につき

「せっ、先生!!!」

ようやく追いついたのは、スタッフ専用の非常階段の扉を先生が開いた時だった。

 

 

「どうした?」

先生は森田さんの退院が余程うれしいのか、振り向いた時に見せるいつもの冷ややかな視線も今日はどことなく柔らかい。

 

 

「あの…森田さんの件、本当にご指導ありがとうございました。先生のおかげで、森田さんが笑顔で退院してくれて、本当に嬉しいっていうか。この仕事、素敵だなって…、思いました。」

 

追いかけたせいで若干息を切らして、勢い任せに伝えた私の想いに先生は今まで見たことない程の笑顔を見せる。

 

整った顔立ちをクシャリと崩して目を細め、口角を少しだけあげた温和な微笑みに私は見惚れてしまう。

 

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