その男、猛獣につき
ガシャリ。
私の後ろで重たい非常階段の閉まる音がする。
スタッフ専用の非常階段は節約モードのためか、日中は消灯している。
そのせいで扉が閉まった途端に小窓から射し込む日光だけが照明となるため薄暗くて、先生の笑顔も影になる。
お昼下がりの午後一は、この非常階段を使うスタッフも居ないのだろう。
人気もなく、静まり返っている。
私は非常階段の扉を背に、二人きりで笑顔の先生と向かい合う形になってしまったから、なんとなく気まずい。
「すみません、呼び止めて。私もリハビリ室に戻り…」
そこまで言った私に、先生が歩幅一歩分だけ歩み寄ってきたから、思わず私も一歩だけ後ろに下がる。