その男、猛獣につき

先生は私の隣から立ち上がり、玄関へ向かおうと身体の向きを変える。

 

その瞬間、私は無意識に先生のシャツの裾を引っ張る。

 

先生が驚いたように私を振り返ってみたから、私の方も動揺を隠せない。

 

 

なんか話さなきゃ。

 

先生に見つめられると焦る。

「先生は、年上が好きって言ってたじゃないですか!!」

 

焦った私の口から勢いに任せて出てきた言葉に、先生はキョトンとした目をする。

「はぁ?」

「だって、しげちゃん先生に、年上が好きだって…」

 

先生は、あぁ、と思い出すかのようにしながら、私の隣の席にもう一度座り直す。

「あれは、その場しのぎというか…だな」

 

先生は少し気まずそうに頭を指で掻く。

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