その男、猛獣につき
「でっかい、ため息」

呆れるような声とともに襖をノックする音。

襖の向こう側から、先程まで電話越しに聞いていた声がするから驚く。



そろり、と襖を私が開けると、そこには先生の姿。
洗いざらしの髪は、まだ少し湿り気を帯びていて、パーカーに柔らかそうな素材のスウェットパンツとかなりラフな格好をしている。



私がそんな先生を見て、固まってしまっていると、先生はフッと目を細めて、顔を綻ばせる。

「よかったぁ。泣きやんだみたいで」

心から安心した様子の声に、私は思わず先生の胸に飛び込んだ。

「どうした?舞花」

先生は、すこし戸惑った様子を見せたけれど、私の背中に手を回し、力いっぱい抱きしめてくれる。

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