その男、猛獣につき
先生の腕の中で、先生のぬくもりを感じると、やっと止まったはずの涙が堰を切ったように溢れだしてくる。


「泣いてるから、心配したから飛んできた」

私の頭の上から降り注がれる先生の声色は、朝、私を怒鳴った張本人かと疑う程に優しくて甘ったるい。

背中を規則的に上下にさすってくれる暖かで大きな手は、私の心を落ち着かせてくれる。




「落ち着いたか?」
私の涙が少し止まった頃、先生は私の顔を覗きこんできた。



「はい、すみませんでした。ご心配おかけして…」

「当たり前だろ、好きな女が泣いてたら、どこにだって会いにいく」


先生は、私を真っ直ぐ見つめてはっきりと告げたから、私の方がなんだか恥ずかしくなってしまって視線を泳がせる。
< 290 / 328 >

この作品をシェア

pagetop