その男、猛獣につき
「まさか、お前が…」
周りの祝福ムードとは対照的に1人大きなため息をつくのは部長。
残っていたビールを一気に飲み干すと、もう一度大きくため息をつく。
「報告が遅くなってすみません」
別段、反省している風でもない主税さんはそう言いながら頭を下げる。
「実習の途中でしっかりと言ったよな?興梠には」
眉間に皺を寄せて、少し機嫌が悪そうな部長に、私も一緒に頭を下げる。
「有田さんを好きな気持ちは止められなかった、といいますか。俺は実習の早い段階で好きだったので…」
興梠先生の言葉に、竹内さんや嶋本さんはヒューっと大興奮。
主税さんと部長の掛け合いを、戦況を見守っているといった形だ。
なんだか、娘と父親、それから娘と結婚したいと言う彼氏ってこんな感じなんだろうか。
渦中にいるのに、どこか俯瞰で自分の置かれている状況を見てしまう。