その男、猛獣につき
「本当、有田っておかしな奴。」
頭を下げた私に、降ってきたのは意外な言葉。
先生の顔を覗き見れば、柔らかな笑顔を浮かべていた。
「お、おかしいですか?私。」
あぁ、 充分、おかしい。
先生はエンジンをかけながら呟いた。
先生は柔らかな表情を崩さない。
けれど、やっぱりそれが褒め言葉だとしても、先生にそう言われると少しだけ傷つく。
「今までの実習生は、車イスバスケに連れてきても、俺の機嫌ばっかり取ろうとしたり、勉強モードで挑んでたのに。有田、お前って奴は……。」
そう言われて、今日1日の自分を振り返る。
楽しみ過ぎちゃったかな……。私……。
なんだか急に不安に襲われ、涙が溢れそうになる。
「なに、泣きそうになってんだよ。俺は、誉めてんの。来週も行きたいなんて言う学生初めてだよ。」
先生は柔らかな笑顔のまま私の頭をワシャワシャと撫でた。
先生の大きな手は、思っている以上に暖かかった。