その男、猛獣につき
「良かったぁ。一瞬、これで実習は不可だって思いました。」
「そんな事で、不可になんかしねぇよ」
さっきまで柔らかだった表情はみるみるうちにいつもの感情の無さそうな涼しげな表情になっていく。
「じゃあ、なんでこれまで永嶋病院の実習生は不可なんですか?」
私は、今しかないと思いきって聞いてみる。
「これまでの……。って今までうちの病院が預かった実習生は3人。1年に1人で、有田で4人目。一昨年の学生は、耐えられず、昼休みに山に脱走した。」
「それ、嶋本さん達に聞きました。」
私が言うと、先生は、あれは大事件だったからなぁと苦笑いした。
「最初の年の学生は、実習中に彼女の妊娠が発覚して、就職するからってフェードアウト。それから一昨年の学生は脱走しただろ。去年の学生は、手抜きレポートだ。」
「手抜きレポート?」
先生は、そう、と頷く。
「去年の学生は、頭良かったんだ。でも、頭良すぎて、要領まで良過ぎたんだよなぁ。5症例のレポートを書くことだけが目的になって目の前の症例がみえてないんだよ。」
先生は重い溜め息をつく。