その男、猛獣につき
「同じ疾患でも、全く同じ真のニーズをもつ人は、いない。一人ひとり、立場やバックグラウンドが違うからな。だから、退院後の方向性やバックグラウンドが変化すれば多少なりとも真のニーズも変化する。」
なるほど。
私が先生の横顔を見ながら、聞いていたのに気づいた先生は、フッと笑って視線をさ迷わせた。
「去年の学生は、過去の同じような症例レポート探してきて、コピペしやがったからな。」
その言葉を聞いて一瞬にして私は青くなる。
だって私も同じ事をしようかな、なんて考えていたから。
危うく実習不可の判定だったわぁ。
内心、凄く焦っているのを気付かれないように私は前を向き直す。
「有田は、そんなこと出来ねぇだろう。まぁ、コピペなんてバカなことしたら、俺が……。」
「俺が……?」
さらに青くなりながらも、恐る恐る訊ねる。
先生は、その先の答えを考えて居なかったようで、押し黙った。