その男、猛獣につき


「まぁ、その……、あれだ。そんな事しなくても済むように、有田は有田らしく、症例と向かい合ってみろ。手段なんて、考えなくてもいい。」


先生は開き直ったように口を開く。



先生の苦し紛れに言った、その言葉が私の胸に突き刺さる。


「私は、私らしく。」
先生の言葉を反芻してみる。


そっか、私らしく向き合えばいいんだ。

先生の機嫌とか、実習の合否とか考えず、明日から森田さんのことしっかりと考えればいいんだ。



そう思えた瞬間、私の気持ちはスッと楽になった。

< 63 / 328 >

この作品をシェア

pagetop