その男、猛獣につき
「興梠先生、私また明日から頑張れそうです。ご指導よろしくお願いします‼」
楽になった気持ちに任せて、先生に笑顔で伝えると、チラリとこちらを見た先生は、
あぁ。
と素っ気なく相づちした。
☆★☆
「今日は、本当にありがとうございました」
病院の駐車場に車を停めた先生に私は助手席で頭を下げる。
あんなに降っていた雨も、いつのまにか止んでいた。
あぁ。
先生の素っ気ない返事を聞きながら、私はシートベルトを外す。
「先生のこと、冷徹だと思ってたけど、本当は優しいですよね。ものすごく。」
面と向かって言うのは、あまりにも照れ臭い言葉。
それでも伝えたかったのは、今日1日、先生の様々な表情を見てしまったからなのかもしれない。
だから、先生の車を降りる前にサラリと伝えた。
先生の顔なんて見ないで。
急いでこの車を降りて、帰ろうと思っていた。
それなのに。