その男、猛獣につき


「すっ、すまん……」

言葉を発した先生は、明らかに戸惑っていた。


その様子に私も戸惑ってしまう。

「あっ、いえ。だ、大丈夫です‼」

先生は無言で頭を掻く。


はぁ。
先生の大きな溜め息の音が、カーステレオから聞こえる軽快な洋楽の間を縫って聞こえてくる。





「せ、先生‼また明日。」

早急に伝えて、半分開いていたドアから降り、私は先生の返事も聞かずにドアを閉め、逃げるように部屋に戻った。




痛くもなかったはずの先生に掴まれた手首は、熱を帯び、その夜は先生の手の感触が離れなかった。

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