シークレットな関係

「遅いぞ。何をしていた」

「すみません。雑用の仕事を教えてもらっていました」

「さっさと始めろ。今日もやることはたくさんあるんだからな」

「はい。すぐに」


デスクの上に置かれていた受注書の分厚さにげんなりしつつ、パソコンに向かう。


私のデスクは高橋の隣にあり、受注管理専用のパソコンを使用している。

くっついてるわけではなくて少し離れているけれど、小さな独り言とかが十分聞こえる距離にある。

だから、たまに高橋が出す舌打ちとかが聞こえてくるわけで・・・。

怖い。一体何に怒っているのか。

黙々とこなす入力作業の合間に、高橋の様子をちらっと見てみる。

真剣にパソコン画面を見る表情は気迫が感じられて、すごく近寄り難い。

デスクの上にはパソコンと電話しかなく、書類やファイルが山と積まれた一般社員のデスクとは雲泥の差だ。

高橋の周りだけ見えない壁があるようで、まるで難攻不落のお城みたいな雰囲気。

必要に迫られないと話しかけられない感じで、気の弱い女子社員は苦労してるんじゃないだろうか。

昔から愛想がない男だったけど、仕事をスムーズに進めるにはコミュニケーションが大切なのに、高橋には関係ないのかな。


「櫻井、これも頼む」


渡された書類には小さな付箋が張り付けてあり、几帳面な字で『七時 カフェ ルーベル』と書かれていた。

待ち合わせだ。改めて、恋人契約は本気だったのだと感じる。


「わかりました」


事務的に返事を返し、貼り付けてあった付箋を粉々に破いてごみ箱に捨てた。

< 16 / 119 >

この作品をシェア

pagetop