シークレットな関係


「おはようございます」


声を掛けると、おばちゃんはふくよかな頬をいっそう丸くして笑った。


「おはよう。あ、今日は雨が降るそうだよ。あんたが帰る頃には降りだすって」

「うそー、そうなんですか?どうしよう傘を持ってないです」

「それなら忘れ物の折り畳み傘が掃除道具置場にあるから、こっちにおいでよ」


今朝はものすごい綺麗な青空が広がっていたけれど、夕方には雨の予報だなんて。

にわかに信じがたいけれど、おばちゃんに付いていくと廊下の端にあるベージュのドアを開けた。


「わあ、意外に広いんですね」


そこはバケツやモップなどの掃除道具のほかに、蓋付きの大きなコンテナがいくつかあった。


「うちの方針でさ、企業から出た紙ごみは一週間置いてから捨てるんだよ。だからここは広いのさ。傘は確かここに・・・ああ、あった」


はいと差しだされた水玉模様の折り畳み傘を受け取る。


「小さい傘だから邪魔にならないでしょ。机の引き出しに入れときなよ」

「ありがとう」

「仕事がんばりなよ」

「はい、じゃまた明日」


にこにこ笑うおばちゃんに手を振ってオフィスに入ると、高橋はまだ来ていなかった。

スケジュールボードには午後出勤とある。

いると舌打ちとかが聞こえてきて怖いけれど、いないと意外に寂しい。

朝一で取引先に行ってるのかな・・・。



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