シークレットな関係
茜色のロマンス
『あー、駄目!駄目!』
苛立つような声と小さな舌打ちの音とともに静寂が破れ、暗闇の中でため息混じりのざわめきが起こる。
私の前に立つ白衣を着た俳優のメガネが冷たく光り、薄くて形のいい唇が辛辣な言葉を投げてくる。
『もう何テイク目だよ。子役だったっていうから期待してたけど、才能なさすぎ』
うんざりしたような声、ボソボソと話す声、方々から責められていて耳をふさぎたくなる。
『監督、このシーン明日にしてよ。次の仕事がおしちゃうじゃない。私暇じゃないのよ』
ベテランの女優さんが監督に文句を言ってる。
ライバルの新人女優がニヤニヤ笑って私を見ている。
『このシーン無くすか?』
『いや、思いを告げる大事な場面だぞ』
『ここだけ代役って手も・・・』
駄目、待って。もう一度やらせて。
次は上手く演じるから。次は台詞を噛まないから。
ちゃんと監督の要求に応えるから。
あの子にこの役をさせないで。代役を立てないで、お願い。
俳優の光るメガネ、困り顔の監督、ニヤニヤ顔のライバル女優、カメラに照明、全部がぐるぐる回る。
『本当に子役で売れてたのか?』
『NG出し過ぎよねー』
『最悪』
クスクス笑う声も渦を巻く──
「やめて!!」
自分で出した声に驚いてカッと目を開くと、見慣れた天井があった。
ここは私の部屋・・・夢、だったんだ・・・。