シークレットな関係
シークレットで恋して
「却下する」
「必要ない」
最近高橋は、この二つの言葉をよく使う。
多くは女子社員に対して言っていて、男性社員にはあまり言わない。
てっきりお仕事のことだと思っていたけど、全く違うということが昨夜判明した。
課長を諫めた一件以来、電話番号やら食事のお誘いやらを書かれたメモが書類やお茶と一緒に渡されると話してくれた。
話しかけるなオーラを身に纏う高橋には、メモ作戦でいくのが女子社員の常識のようだ。
そういえば、私が勤め始めた頃にもメモを渡していた女子社員がいたっけ。
それに、話しかけても会話が続かなくて撃沈って笹山さんたちも言ってたな。
あのときからもう二ヶ月くらい経っている。
契約が終了するまであとわずか・・・派遣も、高橋との仮恋人も。
『メモなど、非常に面倒で時間の無駄』
スパッと断罪する高橋も、私にはメモでマメに連絡してくる。
秘密だし電話番号を知らないからと分かってるけど、つい“私だけ特別”だから?と淡い期待を持ってしまう。
彼には、好きな人がいるのに・・・恋心って本当に残酷で切ない。
「これは不要だ。破棄」
「はい。申し訳ありません」
今日も彼のデスクには、メモ付き書類が提出されていた。
沈んで帰っていく彼女たちだけど、それでも羨ましいと思う。
期間が終われば関係がなくなる私と違って、これからも毎日無条件で彼のそばで仕事ができるのだから。