正しい恋愛処方箋(改訂版)
正直、特にこの会社にどうしても入りたかったわけではない。
中学二年の時に父親を飛行機事故で亡くした後、母は一人で私とまだ八歳の双子の妹と弟を育ててくれた。
だから、親孝行とまではいかなくとも少しでも楽させたいと就職できれば正直どこの会社でもよかった。
「おっ、ウサギちゃん!」
「……英部長、私はウサギじゃありません!」
「いやいや、ウサギちゃん!ウサギって言うのはふわふわでちっさいだろ?可愛い感じがピッタリだから。」
「…………イジメですか…」
経理課のフロアを抜けて廊下を歩いていたら前から片手を上げて話し掛けてきた、英 伊織。総務課の部長で香港にある支社を纏めていたエリートホープ。
私の事をなぜかウサギと呼ぶこの人のせいで私は男性社員にウサギと呼ばれてしまう。
「確かに153センチしかないですよ。でもウサギじゃないです。」
「ははっ、ちっさいのは認めるんだな。まぁ気にすんな!」
「っ英部長のせいでみんなからウサギって言われてるんですから!それに英部長がでかいから余計に小さく見えるだけです!」
入社当初からこの人に構われてるからか、いつの間にかこんな風に話す癖までついてしまった。