正しい恋愛処方箋(改訂版)



いつもウサギ、と呼ばれる腹いせに少しびっくりさせてやろうなんてヨコシマな考えで足音を忍ばせ英部長に近づいた。


「…悪い、今日は無理なんだ」


お仕事の電話だったら驚かすのはまずいかな。
英部長から見えない場所に隠れるみたいにしゃがみ込んで悶々と考えてしまう。


「アイツもいるし…拓海の家だから今日は行けない。………あぁ、ちゃんと戸締まりしろよ?」


あれ?もしかして…恋人?
いつもより数段甘い声の部長にこっちが恥ずかしくなる。

英部長って恋人いたんだ。



「あぁ、俺も。メグが1番だからな。じゃあな」


………私、もしかしなくても邪魔だよね。
出るに出られずに、どうしたものかとオロオロしていれば、バチリと合ってしまった視線。
部長は驚いたような気まずそうな複雑な表情をしているし、私は私でかなり気まずい。


「………聞いた?」

「え………あ…すみません…」


困ったように苦笑している部長に謝って、すぐに視線を逸らした。


「あのさ…今聞いたの聞かなかった事にしてね。もしくは、絶対に誰にも言わないでな。」


思わず首を傾げた。
どうして恋人を隠すんだろう。
もしかして、恥ずかしいとか?いや、英部長はそんなタイプじゃないような気がする。むしろすごく自慢してそうな…


「ウサギちゃん?」

「あ、はい。わかりました!」

「ありがとう……俺は良いけど彼女に迷惑かけらんないからさ。」


彼女さんのためだと照れ臭そうに言う英部長が可愛い。
私はこの時はたいして英部長の電話を気にはしなかった。

これで誰かが傷ついているなんて思いもしなかったから。




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