手を伸ばせば、きっと。
兄妹
引っ越してきて早くも1週間が経ち、明後日には高校の始業式を控えていた。
私と悠都は、この間のマッサージの件で、何とも言えない微妙な雰囲気になっていて。
でも、ずっと気まずいままだと、さすがにお母さんにも「何かあったの?」と聞かれてしまうから…
私は悠都の部屋の前に立っていた。
…一言目、何て言えばいいんだろう。
「どうしよ…」
無意識に小さく漏れたその声は、悠都に聞こえていたようで
ガチャッ
部屋のドアが開いた。
「あ、あの…っ!」
「…どうした?」
「ぃ、いやぁ…えーと…!」
「とりあえず入って」
悠都の部屋に入るのは2回目だった。
でも、1回目は本人がいないときにナイショで入ったから、悠都は私が部屋に入るのは初めてだと思っているだろう。
「きれいな部屋だね」
「んーまあ、華純たちが来るまではほとんど家にいなかったしな」
「部活忙しいんだもんね。あれ、今日は?」
「今日は年に数回しかない1日OFF!」
「え…!少ない…!」
「だろ?でもそれにも慣れた」
「私は絶対やっていけない…」
「そうだな。男でも辛くて辞めるやつ多いし」
「さすが強豪校。部員数は?」
「今は…134人」
「ええ!!!!」
134人…!?
でもレギュラーになれるのはそのうちのほんの一握りなんだもんね…。
「本当はもっといたんだけどな」
「多すぎるよ…」
「俺たちもうすぐ3年になるけど、今まで公式戦どころか、遠征にも参加できない同級生がたくさんいるんだよ。」
「うん。」
「でも、それでも続けてきた理由って、単純に、サッカーが好きだからなんだよな」
悠都は、真剣な真っ直ぐ前を見つめた。
「そんなやつのためにこそ俺は勝ちたい」
「その思いがあれば、きっと勝てるよ」
「ははっ、サンキュ!」
笑顔を私に向けていて。
私は無意識に視線を逸らしてしまった。