水男(ミズオ)
外にはタクシーが待っていた。


「じゃあ明日」


俊介は顔に張り付いたような笑顔で
美里を送る。


でも美里はタクシーに
乗り込まない。


じっと俊介を見つめて
小さな声でこう言った。


「今日は帰りたくない」



その言葉を聞いて一瞬ニヤリとした俊介。


欲望が心の底から湧き出るのを
笑顔で隠す。


「仕方がないなあ。じゃあ僕の家に来る?」


赤く頬を染めた美里が
小さくうなずく。


そして二人は一緒に
タクシーに乗り込んだ。


走り出すタクシーの中
俊介の肩に寄り掛かる美里。


美里の肩を抱く俊介は
またニヤリと笑う。


タクシーはどこまでも続く
闇の中を走り去っていった。



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