水男(ミズオ)
じゃんけん
朝。


亜美は会社へ続く道を
歩いていた。


いつものごった返す駅を降りて
街路樹が続く大通りを歩く亜美。



恋人を殺して死体を冷蔵庫に詰め込んだ殺人鬼が
マンションから転落して自殺したニュースは


世間をにぎわせていた。


会社は今もたくさんの警察や報道陣が
取り囲み


会社の入り口に入るのも
一苦労。



何とかして殺人鬼の情報を得ようと
殺到してくるマスコミを


無言でかわして
やっとのことで


会社の中へ。


ドアの外でまだ何か叫んでいる
マスコミを見て


亜美はため息を一つついた。


そして



エレベーターに乗ろうと
ボタンを押す亜美。


しばしの静寂。


そしてエレベーターが
音もなくすっと扉を開ける。


誰かが乗っているようだ。


亜美はドアの端に寄るが
乗っている人物は


エレベーターを降りようとしない。


不審な顔をして
降りようとしない人物を見つめる亜美。



すると突然


エレベーターに乗っている人物が
亜美に向かって拍手を始めた。


エレベーターに鳴り響く拍手。


亜美はますます不審な顔になって
こう言った。


「あのー下りないんですか?」

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