水男（ミズオ）

中村は自分の長い黒髪を
耳に突っ込んだ。


もちろん初老の男の
くだらない話を聞かないためだ。


「カメラの初心者はね


ファインダーから
景色を覗いてばっかりで


実際に自分の目で
風景を眺めることを


忘れてしまうんですよ。


素晴らしい写真を撮る人と言うのは


まず自分の目で風景を見て
その様子を心に刻み込む。


そしてその素晴らしい景色を
写真に再現するために

ゆっくりとファインダーをのぞくんです。


つまりは

自分の目で見て心に感じたものが大事だと
言うことですよ」


「もし全日本くだらない話選手権ってものがあったら
平野さん優勝できるんじゃないですか？」


中村はため息をつきながら
そう言った。