水男(ミズオ)
あきれ顔の中村を無視して
平野はしゃべり続ける。


「私も自分の目で見て心で感じるために
あの会議室に行きました。


資料を見てあれこれ考えるより
実際の現場に行き


関係者の息遣いを感じる方が
得る物が大きいと思ったからです」


一瞬鋭い目になる平野。


「中村さんの質問に答えます。


顔色が変わったり
怪しい動きをした人は


誰もいませんでした。


まあ、顔色などは
訓練したらどうにでもなるものですしね。


どんなに心が動揺しても
まったく顔色や動きに出ない人は


珍しくはない。


でもね……」


平野は運転をする中村に
指を一本立てた。


「一つだけどうしても
心の動きが隠せない場所がある」


平野は立てた指を
ゆっくりと自分の頭の横に


持って行った。


「耳」


自分の耳を指さして
ニヤニヤ笑う平野。
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