【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。



仕方ない。


何一つ、覚えていないから。



自分の名前。家族構成。普段の友人関係。生年月日にそれから性格。


手指を動かす感覚さえ、初めてに感じられて。


あまりにも、知らないことが多すぎる。


それが耐え難くて、何度も頭を悩ませるけど靄がかかったみたいに、やっぱり頭の中は真っ白で。


……どうして。



私は、どうしてこうなったの……?






――その後。



「経過を待つ」との事でその場は納まったけど、結局は遠回しに、見通しは立たないと言われたように思えた。


つまりそれは、記憶が戻るのに要する正確な時間が分からないという事に他ならない。


『精神疾患』


どこかで聞いたことがあるような単語に、いまいち現実味がない。


そういうものなのかもしれないけど……



実感なんて湧かなくて、不思議と冷静に受け止められた。


というよりむしろ、どうでもいいと感じている自分がいた。


私は元々こんなにも冷めた性分だったんだろうか。


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