【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
浅くため息を吐いて、ベッド脇の、見れば小さなクローゼットに手を付いて立ち上がったところで、ふと気付く。
置かれた一冊の本。
今まで気付かなかったけど、きっとずっと、元からここに置かれていた。
「あの、これは…」
健診で使用した体温計や血圧計の片付けをしていた看護師さんに聞くと、ああ…と頬に手を当てて思案顔で答えてくれた。
「それ、事故時に貴方のすぐ側に落ちていたのよ。
埃を被っていたくらいでめぼしい傷も見当たらなくて、人の通りも多くはなかったから貴方の私物かと思ったの。
それにしても……」
と、その顔が優柔を孕んでふっと緩む。
微笑ましい物を見たような、優しげな笑み。
「持ち歩くほど大切な物だったのね。見つかった時、貴重品は何も持っていなかったそうだから。
制服を着ていたから身元はすぐに割れたとは聞いたけれど、それだけね」