【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
言いながら、後片付けが終わったのか道具の諸々を腕に抱えた。
出て行く前にこちらを振り向くと、少し考える素振りを見せた後、また小さく笑う。
「それじゃあ、お大事にね。
何かあったらいつでもどうぞ、藍名さん」
破顔した表情のままそう言うと、ドアを閉めて姿を消した。
それを確認した後、途端に緊張の糸が解けたかのように、ふっと息を吐く。
最後に看護師さんが目にした私は、とても感じの悪い顔をしていたに違いない。
備え付けのテレビに映った、眉根を寄せて深い皺をつくる自分の顔を見てほんの少し、落ち込んだ。
そして。
うろうろ、うろうろ。
窓を見たり、ベッドに寝転んだり、誰も来ないドアを意味なく眺めたり。
しばらく続いた落ち着きのない行動。
最早それが不審以外の何物でもないという事は、とっくに自覚していた。