【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
言葉を選んでいると、「ほら」と声のトーンを落として静かに告げる。
「本当に冷めてたらできないだろ、そんな事」
目尻を下げて、目をきゅっと細めて見せた、嬉しいと言わんばかりの表情に目を見張る。
文字通り、花の咲くような笑顔に不覚にも、魅了されてしまった。
大げさだけど、本当にそうなのだから何も言えない。
私は彼の言葉を受け入れるように、小さく頷いた。
思い出してしまったんだ。
仲睦まじい母子を見て、笑みを漏らした自分を。
出て行った奥田さんを追って、戻ってきた事を。
何もできなかったと、心に沈んだ深い後悔に何も言えなくなった事を。
どうでもいいわけない。
私は確かに、周囲に目をやっては新しいものを求めていた。
零れたものを拾おうと苦悩していた。
それは、とてもとても鮮明にまだ、胸に残っている。
本当に冷めているなら、そんなこと……
出来るわけがない。