【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。



時が、止まった気がした。


先に息をついたのはどちらだったか。


何も発しない。


ようやく言葉を漏らしたのは、名前も知らない彼だった。



「……え…?」


掠れた声は、喫驚して更に大きな動揺を誘発させる。


“信じられない”と、言葉はなくとも語っていた。


「どうして」「なんで」と言いたげな視線から、初めて私から目を逸らす。


何か、自分が悪い事をしてしまったようで気まずくなってしまう。



……ああ、やってしまった。


変わらないはずの日常に訪れた突然の出来事。


吸い寄せられるような一連の、無意識の行動。


思い返せばまた、もっと深くなる罪悪感に、頭の中は一杯になった。



彼は、誰で。


私との関係とか、仲とか、聞きたいことも聞けることも当然あったはずなのに。


迷子になったのは言葉だけじゃなくて、声も、思考もだった。


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