【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。



ようやく意識が戻されたのは、それから少し後。


戸惑う彼に早口に促されたとはいえ、経緯を話した事を深く後悔した。


「そん…な…」


ぽつり、とそれ以上の続きは期待できない一言。



呆然と、まるで風に揺られながらも辛うじて立つ棒切れのようにぐらぐらと、その姿は今にも倒れそうなくらいに不安定で。


なんて声をかければいいか、いまいち分からなかった。


それは勿論、香川くんや奥田さんのような前例が頭の隅でちらついていたからに他ならない。


けど、それとは別にどうしてか、言ってはいけないような気さえしていたから、尚更後ろ暗い気持ちになった。



「ヒメが……やっと、話せると…思ったのに……やっと……僕が、僕で…」


恐らくは、私に聞かせるつもりなんてない、無意識に漏れるだけの独り言。


生気の消えたような言葉の端々から、虚ろな危うさが伺える。


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