【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
か細くて小さいけど聞き取れるそれらは、何を言いたいのか私には到底理解し得ないものだった。
「ヒメに……僕の…」
そこまで口にして、ぷつりと声は途切れた。
……何でだろう。
纏う雰囲気も、周りに立ち込める空気さえその瞬間に、がらりと変わった気がする。
あまりにも唐突すぎて思考は到底、追いつかない。
ただただ私は立ち竦むばかり。
倒れ込みそうだった体のふらつきは止まって、私をまっすぐと見つめるその顔に表情はない。
暗く淀んだ瞳の奥に躊躇いは一寸もなくて、見ているだけで異常な震えに襲われた。
手足から始まって体中に染み広がるそれは、明らかな恐怖を私に覚えさせる。
なに、これ……。
この感覚、前にもあった。
一度や二度なんてものじゃなくて、一瞬だけどきっと、さっきも感じたもの。