【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。

何で。何が、起きてるの……?



「…ぃ、やだ……」




——ここから離れたい…。


目を背けたい、逃げ出したい、いっそ忘れてしまいたい。


分かってしまった。


私が何も覚えていない訳。


体が、心が……



今ここで、全身全霊をかけてもいいと思えるほどに。


思い出す事を拒んでいる。


縛り付けるこの、絶対的な支配から解放されたくて。


だけどもう、どうでもいいと錯覚してしまえるほどの圧迫感。


地に足が張り付いたかのように動けなくて。



ぼんやりとした頭では何も考えられない。


目の前が僅かに暗くなった気がする。


抗えない。私、どうしてこの人から……



“どうやって、逃げたんだっけ”。



……逃げる?


ああ。確か、そう。


私は懸命に抗って、この人から逃げて、その後……



その後、は……?


どうしたんだろう。思い出せない——。



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