【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。



「ヒメ……」


ゆったりと、紡がれる声。



「ダメだよ、ヒメ。もう逃げたら」


凄むわけでもなくて、ただ冷静に、静かに。


だけど果実のように甘くて、誘うように艶やかな声。



ああ、この声が。


私の感覚を麻痺させて、何もかも投げ出したくなるような気にさせる。


考えなくてもいいんだと思わせる。


ただこの人の言うことさえ聞いていれば、何も、怖いことなんて……



「ヒメ、お仕置きが必要かな?」


怖い、ことなんて……もう、ない…のに。


「……ど……し、て…」


こんなに足が竦むの。頬が強張るの。唇が震えるの。



「好きなんだ、僕を見る時のヒメの顔。従順なのにどこか反抗的なその顔は……やっぱり、そそるね。

ねえ、ようやく自覚した?
ヒメは僕の大切な子。世界で一番大切な……」


彼はその後、こう言うんだ。



『“人形”だって』——。


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