【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。


頬を優しくなぞり上げるしなやかな指先。


身体中の毛が逆立って、触れられた箇所が凍り付きそうなほど急速に冷えていく。


そんな、感覚。



怯懦し切った私の姿を恍惚とした表情で見つめる瞳からは、色気が滲み出ている。


それが、血の気の失せたような顔をした私をさも楽しげに観察しているようで、まさに今、翻弄されていることを悟った。


完全に掌で転がされている。


どうしてか、ひどく悲しくなった。



屈辱?……違う。


意地?……違う。


切望?……違う。


そうじゃない。違うの。


切迫したこの状況で、まともな思考なんて働かせようとしても無理な話。


なのに、頭の奥深くではまるで、針でも刺さっているみたいに何かが引っかかっていて。


消そうとも消そうとも、増大する、一種の不安にも似たもの。



この違和感はなに?


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