【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
奪われたナースコールになお視線を注ぐ私に、まるで相手の代わりのように応対したのは、天使のような笑みを浮かべた悪魔。
少なくとも、視界の端にその姿を捉えた私の目にはそう写った。
「ねえ、ヒメ」
あの日、目覚めた時から誰も私をそう呼ばない。
きっと、今の私が知らない、以前の“私”に対しても、そんな愛称で呼んでいたのはただ一人。
「ヒメだけは離れないよね」
知らない、私はこの人を。
それなのに、どうしてそう思うんだろう。
どうして分かってしまうのだろう。
それならいっそ、知らないままでも良かった。
自分の名前なんて分からないままでも良かった。
「そう、信じていたのに」
そう、思うのに。
なのに、どうして……?